個人事業主 益田翔さん
株式会社ベクトルで1年1か月の長期インターン。その後、2022年5月(大学3年生のとき)に「Z世代向けマーケティング支援事業」で起業。カチフル合同会社CEOを1年間務め、現在は個人事業主として飲食店『musch』や『muse』などに関わる。
大手PR会社でのインターンを経て「Z世代向けマーケティング支援事業」で華々しく起業した益田翔さんに学生起業.comがインタビュー。
しかし、そこで語られたのは、表舞台に立つ彼の姿からは想像もできないような壮絶な経験でした。
メンバーの離脱とうつ病の発症という2つの試練に直面した起業家が、どのようにして苦境を乗り越えたのか、そこからどのような教訓を得たのかを深掘りします。
インターンで感じた違和感が起業の原動力に
起業を思い立ったきっかけを教えていただけますか?
一番のきっかけは、インターンをしていたPR会社で大学生向けの案件に携わった経験です。
インターン先の会社からすれば、僕も「大学生」というターゲット層に属する「n=1」。でも、その会社から「このサービスについてどう思うか?」「この商品を買いたいと思うか?」などの意見を求められることはありませんでした。
このとき「自分だったらターゲットである『n=1』に対して、もっと分析をしながらプロジェクトを進めるのに」という気持ちになったんです。市場のインサイトをとことん深掘りして、それをPRやマーケティング戦略につなげることが自分のやりたいことなんだと思いました。
加えて、自分自身が大学生であること、また300人ほどの同世代の知り合いがいることも強みになると考えました。Z世代向けのマーケティングに特化することで、既存のマーケティング会社に勝るサービスを提供できるのではないかと考え、自ら起業することを決めました。
インターン期間は1年1か月だったとのことですが、インターン終了後に起業したのですか?
いえ、インターンの期間中に起業しました。6~7か月目くらいのタイミングだったと思います。準備期間は4か月程度で、起業の方法なども1か月くらいで一気に調べて、そのままの勢いで起業しました。
インターン先はアジアを代表する規模の会社だったので、最新のトレンドや進行中のプロジェクトに関する豊富な資料にアクセスできる、学びの多い環境でした。そういった環境に身を置きながら起業を進めていくのが、一番効率的だと考えていましたね。
起業家だった祖父の影響も
以前から起業したいという思いはあったのでしょうか?
元々、起業はしたいと思っていました。祖父が起業家で、ゼロから事業を立ち上げて売り上げを築いてきた話を中学生の頃から聞いていて、子どもながらに「かっこいいな」と思っていました。
その頃から「将来的に起業したい」という思いはぼんやりとありましたが、具体的にどんな事業を行いたいかまでは定まっていませんでした。そんな中でインターンでの経験があり、マーケティング事業で起業するに至りました。
4か月間で起業準備をされたとのことですが、具体的にどのように進めていったのですか?
ネットで調べまくるとか、先に起業した人たちに話を聞くとか、結構泥臭くやっていましたね。
身近に起業家が多くいるわけではなかったので、Xとかを使って頑張って探していました。元々インターンや就活・ビジネス系アカウントと相互フォローしていたので、その人たちに「良ければ話を聞かせてほしい」とアプローチしていった感じです。
起業家の先輩たちからは、主に起業に対するスタンスやマインドセットの部分を教わることが多かったですね。逆に実務的な部分に関しては、実際に自分の手を動かして感覚を掴んでいきました。
ただ、学生起業とはいえプロとしてお金を受け取る以上「チャレンジしたい」を理由に仕事を受けることはしないようにしていました。「こういうロジックがあって、これくらいの伸び方で、これくらいの費用対効果が見込めます」という部分をしっかり説明して、コンサルテーションで結果を出せる状態で最初から仕事を受注していましたね。
メンバー2人の突然の離脱
当時、苦労したことはありますか?
起業して7~8か月目くらいで、コアメンバーだった2人が同時に離脱しました。
2人とは元々大学の先輩・同期という関係性で、自分から声をかけてメンバーに迎えました。僕が頭を使って戦略を練る立場で、2人には実務的な部分を任せていた感じです。
なんと……!離脱の原因は何だったのでしょうか?
2人に対して、僕から感謝を示せていなかったことが一番の理由だと思っています。
学生起業をすると、周囲から「大学生なのに起業なんてすごいね」「社長じゃん」と評価されるようになるんです。だから、自分自身のブランディングにも気を使う必要が出てくる。それはあくまで「事業を通じた社会貢献」という目的のための1つの手段でしかないのですが、いつの間にか自分のブランディングが目的になってしまっていたんだと思います。
結果、自分を優先するあまり他のメンバーを無下にしてしまっていました。
実際に、2人から「自己ブランディングに気を使いすぎだ」と直接指摘されたこともあります。
当時の僕は2人に対して「お金を払っているんだから働いてくれて当然」という考えで、ありがとうの5文字も言えていませんでした。
こうした僕の態度に対する不満が積もりに積もって、2人同時に離脱するという結果に至ったと思っています。
自身もうつ病を発症
実務を担う2人だっただけに、影響も大きかったのではないですか?
正直かなりきつくて、僕自身がうつ病を発症してしまいました。進行中だったプロジェクトも抱えきれなくなり、それが原因でうつ症状がさらに悪化するという負のループに陥りました。この連鎖が本当に辛かったです。
危機的状況だったと思いますが、どのようにして乗り切ったのでしょうか?
負のループを断ち切るしかなかったので、最終的には仕事を辞める決断をしました。進行中だった仕事は他社に再委託して何とか完了させ、その後クライアントにはうつ病になってしまったことを伝えて謝り、すべての受注を停止しました。
これによって「納期に間に合わない」といったプレッシャーが解消され、幸いにも1か月ほどでうつ病は完治しました。ただ、療養中も「なぜ離脱されてしまったのか」「なぜ感謝できなかったのか」と自省は続けていましたね。正面から問題に向き合って、自分の至らなかった部分を自覚したことで、早期の復帰がかなったと思っています。その後は、現在の個人事業主としての活動に主軸を移しました。
起業を志す後輩へのアドバイス
当時の経験を踏まえて、起業を志す後輩にアドバイスするとしたら?
僕から伝えたいことは3つです。
1つ目は、とにかく周囲の人に感謝をすること。
2つ目は、起業に対するスタンスやマインドセットを整えておくこと。今日の僕の話もその1つですし、自分で見つけられなければ成功している起業家や経営者に聞いてみると良いと思います。
そして3つ目は、自省することですね。特に起業初期は、無知ゆえに「自分は何でもできる」という全能感に陥りがちです。でも、本当に強い人は「自分は大した人間ではない」「ミスをすることもある」と自覚できている人だと思います。目標1つひとつに対して「なぜ成功したのか」「何がいけなかったのか」という自省をくり返せる人が、やっぱり成功すると思います。
僕自身、色々と経験しましたが、起業はして良かったと思っています。
学生起業は、普通の人が新卒入社後に2~3年かけて作っていくキャリアやスキルセットを短期間に自分のものにできます。こうした経験は、その後のキャリアにおいても大きなアドバンテージになるはずです。
編集後記
メンバーの離脱やうつ病の発症という試練に直面し、周囲への感謝・適切なマインドセットの維持・そして自省の重要性を学んだという益田さん。
外から見れば華やかに映る成功の裏にも、試練や苦悩があることを教えていただきました。
誰でも陥りうる、起業のネガティブな側面を率直に話してくれたこと自体が、苦境を乗り越えた彼の内なる強さを示しているのではないでしょうか。
<インタビュアー:ライター・下松>